バファリンでも飲もうかしら?

スタンダール君、君に申しておかねばなるまい。

君は偉大な経験をしたと・・。

 

 

先日、歯医者に半年くらいに一回受けている検診に行ってきた。

その際どうも具合の悪い歯が奥の方に見つかり、すぐ治療することになった。

 

さっそく医者は私の座席を倒し治療を始めたが、わたしはその際、医者が倒した座席の角度に違和感を感じていた。

倒した角度が急すぎたのだ。少々大げさだが私はロープで両足を縛られその足から天井へと吊るされた、いわば宙づりのような状態になっていたのだ。

 

なぜそうしたのか?

気合の入り過ぎた医者のテンションによるものなのか、はたまたギャグのためなのか、単にイジワルなのか知らないが、おそらくは奥の歯だから治療がしやすいためなのだろうと思われる。

そして角度があまりにも急で、頭を下にした宙づり状態の私の頭には一気に血が集中し始めた。

「おお、医者よ、一体わたしをどうするつもりなのだ・・。これからDr.デンタル氏による世紀のロープイリュージョンマジックショーでも始まるのか?」

と胸の中で思ったほどだ。

 

すぐ訴えればよいのだが、人見知りの私はその時は言えなかった。

というかすぐ終わると思い、これくらいは我慢できるんだ、自分は社会人なんだ、がんばれるんだ!と踏んでいたのだがそれが失敗だった。

私はどんどんと気分が悪くなり頭痛まで起き始め、これはもうダメかもしれないと訴えかけた時、治療がいったん終了し、歯科助手の方に引き継がれた。

 

座席が元の位置に戻されたが、私の頭はクラクラし頭痛はするは、気分は悪いは吐き気は催すはで、もう限界だった。

なぜ急にこんなことになったのか、私は不思議で納得がいかなかった・・。

やはり年齢によるものなのか・・?

確かに自分は後期高齢者の部類には入ると思うが、それにしてもこんなにも体が弱くなるものなのか・・・と軽く落ち込んでいたところ、ほどなく助手の方が治療を再開させようとしたので、私はさすがに「気分が悪くなったので少し休ませてくださいと」助手の人に訴えた。

 

すると助手の方が角度が急すぎたため気分が悪くなったのかもしれないですねと言っていた。

 

そうなのか・・?そんな事でこんなことになるものなのか・・・?

 

私は年齢の事や、ただの乗り物酔い的な事だとばかり考えていていたが納得がいかなかったので後に調べてみると、どうやらこれは「スタンダール症候群」というものらしい。

その昔、スタンダール氏が絵画(天井画かどうか定かではないが)を観賞中に長い時間首をそらせ続けたため気分が悪くなり倒れたことがあったことから来てるのだそうだ。

 

長時間首をそらせ続けると頸動脈が圧迫されて血流がおかしくなり気分が悪くなるという事で現代でも割と頻繁にあることらしい。

なぁんだそんな事ね、と軽く考えがちだがこれは美容院脳卒中症候群とも呼ばれ危険な事でもある。

 

スタンダール君、改めて言わせてもらおう。

君は偉大な経験をしたと・・。

君には恋愛について教わりたかった、そしてできた事なら現実の恋愛の事で私はクラクラしたかったが、どうやら私は違う事を教わったようだ。

 

君がその昔に経験していてくれたおかげで私は納得のいく答えが得られ、そして安心できたわけだ。

君には感謝しなければなるまい。

 

そしてすでにご承知の事とは思うが、全国の歯科医師協会並びに医師、助手の方々、これからこの症状を体験される方々にもこういう症状があるという事を是非とも知っておいてもらいたいのである。